ショールームをつくった人たち
あっとリフォームものがたり vol.1
集う、学ぶ、結びつく。
目指したのは、地域のみなさまの暮らしが楽しくなるショールームです。
喜岡徹(きおか・とおる)
福島県出身、リフォーム会社を経て2011年に「株式会社 あっとリフォーム」を設立。福島県白河市の「あっとリフォーム 白河ショールーム」を拠点にリフォームでまちを、人を元気にすることをモットーに日々様々な取り組みを実践している。2018年にショールームを建てると同時にショールーム内に地域コミュニティスペース「つまむーぶ」を主催。
お客さまとアットホームな関係を築き、気軽に相談される存在になりたい。
お客さまからの相談に、あっという間に対応したい。
お客さまがあっと驚くような、満足できるリフォームを提供したい。
これが私たちの企業理念です。2012年に「あっとリフォーム」を立ち上げるにあたって、どんな会社であるべきか、どんな役割を果たすべきかを真剣に考えました。最終的に辿りついたのが、「社会に、地域に貢献する企業でありたい」という思いです。
私は小学生のとき、父親の転勤で福島にやってきました。子どもの頃はこの地への思い入れはさほどありませんでしたが、大学・大学院と東京で過ごした後福島に戻り、なんて自然豊かで魅力的な土地なのだろうと気づいたのです。山もある、海もある、それに温泉もある。アウトドアが好きなこともあり、すっかり魅了されてしまいました。
ご縁あって地元のリフォーム会社に入社し、そこで「天職だ」と感じました。リフォームは、お客さまのご依頼を1から10まで全て自分で対応できる仕事です。困りごとを聞くところから、見積の作成、工事、集金まで。ゼネコンではそうはいきません。自分が担当するのは一部だけで、それ以外はほかの人に任せなければいけないでしょう。でも、リフォームの仕事は自分が全ての工程に責任を持つことになります。「あなたじゃなければ、ここまで満足はできなかったと思う」「またあなたにお願いしたい」——お客さまからそういった声をいただき、独立する決心がつきました。
ちょっと気になっていた部分が改善することで気持ちが明るくなる。綺麗になることで、子どもや孫、近所の人が集まる家になる。リフォームは、暮らしを楽しくするもの、幸せを呼ぶものです。
仕事を通して、お客様に喜んでいただきたい。取引業者や社員を含め、関わる人みんなを幸せにしたい。そうやって、地域に貢献していきたいと思っています。
地域に開かれたショールームとして
会社を設立してから5年目の2017年に、念願のショールームを建てることができました。通常、リフォーム会社のショールームとは、キッチンやバス、トイレなど扱っている商品を前面に置くものです。でも、それは私たちが売りたいもの。そうではなくて、地域のみなさまがほしいものは何だろうと考えました。
白河には、料理やものづくりなどの才能を持った人がたくさんいますが、その能力を披露するのに適した場は多くありません。駐車場がなかったり、子どもが遊べるスペースがなかったり。そこで、私たちのショールームを、地域のみなさまが集える場として使っていただこうとつまむーぶを主催することを決めました。
実際に、ショールームが完成してからさまざまなお問い合わせをいただき、料理教室や風水講座、ベビーフォト撮影会の会場などに使っていただきました。
みなさまの楽しそうな様子やいきいきした表情を見ると、この場所をつくってよかったと心から感じます。リフォームだけではなく、このショールームでもみなさまの暮らしが楽しくなるお手伝いができれば、これ以上の喜びはありません。
地域のみなさまがふらりと立ち寄り、くつろげる場所。コミュニティが生まれる場所。新しいチャレンジができる場所。そんなショールームでありたいと思っています。ぜひ、気軽に遊びに来ていただけると嬉しいです。
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あっとリフォームものがたり vol.2
ファサードと看板が一体化したデザイン
クリエイティブディレクター/建築家 熊田康友(くまだ・やすとも)さん
1978年静岡県生まれ。武蔵工業大学大学院土木工学科卒。設計事務所等に勤務した後、2013年にデザイン設計事務所「DOKI architects(ドキアーキテクツ)」を設立。建築設計だけでなく、ロゴやウェブサイトなど建物に付随するハコ・モノ・コトのデザインをトータルで請け負う。
代表の喜岡さんとは大学院の同期で、「ショールームを建てるから設計を依頼したい」と相談を受けました。でも、リフォーム会社のショールームというものは、通常1日に1組来客があるかないか、といったところです。立派なショールームを建てても、あまり活用されないのではもったいない。元々、喜岡さんは「地域に開かれたショールームにしたい」という構想を持っていたので、ハード面だけではなく、ソフト面も一緒に考えたいと提案しました。
外観は、白河の景観に溶け込むような、地元の人が立ち寄りたくなるような雰囲気にしようと考えました。目立つことを第一に考えた、いかにも商業的で派手なものにはしたくなかったんです。地域の植生を活かしたガーデンデザインを得意とする正木覚さんに依頼し、山が借景になるように植栽計画を立ててもらいました、ロゴ等のVIデザインを地域デザインが得意なアートディレクターの土屋さんに依頼しました。
難しかったのは、“コンビニっぽさ”をいかに消すかという点。元々コンビ二だった建物なので、どうしても独特の形が目立ちます。そこで、前面にファサードを設置し、あっとリフォームのビジュアルアイデンティティとして設定した家の形にくり抜きました。ファサードが看板も兼ねるというデザインです。
このファサードを立てることで、ショールームと駐車場の間に「内」と「外」の中間領域が生まれます。そこにはウッドデッキも設置しました。腰掛けると、目の前にはきれいな景色が広がります。地元の人が立ち寄ってゆっくりコーヒーを飲んだり、ショールームで働くスタッフの方が気分転換をしたり、イベントのときに子どもが遊んだり。そんな想像をしながら設計しました。
内装には、訪れた人が心地良く過ごせるように淡い色使いを採用しました。イメージしたのは空・太陽・緑の色。小屋をいくつも配置することで空間を区切っていますが、完全に締め切ることはせず、お客さんから呼ばれたらすぐにスタッフが対応できるようにと動線を考えました。
コンセプトを形にするための ハコ・モノ・コトのデザイン
設計士として、魅力ある建物をつくるのは当然のことです。大事なのはその先。どんなに立派な建物ができても、人に使ってもらえなければ意味がありません。
「地域社会に貢献したい、地域の人の役に立つショールームにしたい」という喜岡さんの考えがちゃんと現実のものになるように、建物の設計だけではなく、コンセプトの策定からロゴのデザイン、ホームページや動画の作成、ワークショップの企画などトータルでディレクションさせていただきました。
ショールームがオープンするまでは、「本当にここに人が集まるの?」という意見もいただきましたし、不安もありました。でも、オープニングイベントにはたくさんの方が来てくださって。「ここで料理教室を開きたい」「ミーティングに使いたい」といくつものお問い合わせがあったと聞いて、とても嬉しかったです。
このショールームを通して地元の人たちが自分の個性を表現したり、人と人とがつながったりすれば、地域が明るくなるはず。僕も、地元の人の需要に合ったイベントを開いたり、魅力的な人を呼んできたりして、これからも関わっていきたいと考えています。
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あっとリフォームものがたり vol.3
家の中にまちが広がっているイメージを デザインに
アートディレクター 土屋勇太(つちや・ゆうた)さん
山形県生まれ。東北芸術工科大学卒。CI計画やパッケージデザインなど幅広い分野でデザインプランニングを経験した後、2014年デザイン事務所「株式会社豊作工舎」設立。グラフィックデザインを中心に、豊かづくりのためのブランディングやデザイン活動を行う。
・2014年度グッドデザイン賞受賞 メゾン青樹「青豆ハウス」
・2016年度グッドデザイン金賞受賞 第4位 小田急電鉄「ホシノタニ団地」
東京と東北に拠点を持ち、地域・アート・ものづくりといった分野のデザインを行っています。
ご依頼いただいた仕事全てを受けるわけではありませんが、今回は喜岡さんの熱意や人柄に惹かれ、引き受けることにしました。僕も山形出身なので東北つながりということもありますし、地域の人が集えるショールームにすると聞き、「福島でも面白いことを始めようとしている人がいるんだな」と興味を引かれたのです。普通のショールームだったら断っていたかもしれません。
ロゴマークは、家のシルエットの中に、木や建物、扉や窓などを配置したデザインにしました。喜岡さんのお話を伺い、リフォームはトイレを交換したりキッチンを新しくしたりといった形だけのものではなく、暮らしそのものや人との関わりも変えていくものなのだな、と感じたのです。家と一緒に、生活や地域もつくる。そんなイメージを元に、「ひと・まち・住まいのリフォーム」というコピーを提案し、デザインに落とし込みました。
こだわったのはバランスです。あまりに洗練されたかっこいいデザインにすると、人を遠ざけてしまう。かと言って、リフォーム会社なのでゆるすぎてもいけない。親しみやすく、かつしっかりして見えるように工夫しました。丸みを帯びたフォントを使い、イメージカラーには柔らかい印象の緑を採用。幅広い年齢層に親近感を持ってもらえるデザインを目指しました。
全国的に地域を盛り上げようという機運が高まっていますが、小さなまちのリフォーム会社がここまで真剣に地域のことを考えて場をつくるというケースは珍しいのではないでしょうか。喜岡さんは前向きでパワーのある方なので、いい場に育っていくと思います。
地域の仕事をしていると、よく「うちのまちには面白い人がいない」という言葉を耳にします。でも、出会う機会がないだけで、実は魅力的な人はいるものです。場ができることで人の流れが変わり、「ここにこんな人がいたのか!」という気づきがたくさん生まれるはず。ショールームのこれからを楽しみにしています。
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あっとリフォームものがたり vol.4
植物を使い、企業の姿勢を表現
ガーデンデザイナー 正木覚(まさき・さとる)さん
1952年福岡県生まれ。武蔵美術大学造形学部基礎デザイン学科卒。植木職人として修行した後、造園会社を経てエービーデザイン株式会社設立。個人宅や集合住宅、商業空間の造園・環境デザインを行う。
日本工業大学非常勤講師、JAG(ジャパンガーデンデザイナーズ協会)会長、NHK教育テレビ「趣味の園芸」出演、著書に『正木覚のここちよい庭づくり』(講談社)ほか。
美大で学んでいたときから、疑問を抱いていたことがあります。私たちデザイナーは企業広報のためにロゴマークや看板などをデザインしますが、それが行き過ぎると郊外のロードサイドに大型量販店の派手な看板が列挙する風景が生まれてしまう、ということです。
「従来の方法とは違う、新しい広告宣伝の方法はないだろうか」と長年模索していたので、「あっとリフォーム」ショールームの設計図面を見て「これは絶対に面白いプロジェクトになる」と思いました。建物そのものの佇まいで自社のあり方を伝えるというコンセプトだったからです。
喜岡さんの「リフォームを通して暮らしを豊かにするお手伝いがしたい」という想いは、植物を使うことで効果的に表現できると確信しました。
実際に現地を訪れ、周囲の風景がとても豊かだと感じました。目の前には田んぼや耕作地、背景には神社の森。これは日本の里山の風景そのものです。
森に生えている樹木をサンプリングし、その二次植生(自然植生に人の手が入ったときの植生)となる樹木を敷地内に植えました。そうすることで、神社の森に包み込まれているような一体感が生まれるのです。
道路沿いには季節ごとに目を引く花が咲く花壇をつくりましょうと提案しました。背の高い木を植えると、「ここからは私の専有地です」という威圧感を人に与えます。軽く跨げるような高さの草花を植えると、境界線がゆるやかになり、「ここから私の敷地だけど、入ってきていいですよ」というメッセージになります。
また、人は古来、花の咲くところに集まってきました。花が咲いているということは、そこには実がなるということ、豊かな食べ物があるということです。つまり、花を植えることで「ここは人が安心して過ごせる場所ですよ」という情報を無言のうちに伝えることができるのですね。
ショールームのオープニングイベントでは、地域住民の方に種だんごを作り花壇に植えてもらいました。200人ほどが参加したと聞いています。「私たちが植えた花が咲いている」と、成長をあたたかく見守ってくれるに違いありません。
植物は植えたら終わりではなく、日々お世話をする必要があります。よく管理された庭は、見る人に「愛情を持って世話をする人がいる企業なんだな」という印象を与えることでしょう。
ショールームで働く人が、四季折々の庭の変化を楽しんで機嫌良く過ごし、それを見て地域の方やお客様が好印象を抱く。それこそが、一番の広告宣伝だと思っています。
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